ブランディングの成否を分けるのは
予算ではなかった
|調査が示す本当の成功要因
公開日: 2026年8月27日 / BRÜSCAPE
「ブランディングはやったほうがいいと思う。ただ、うちにはそんな予算はない」——地方の中小企業を訪ねると、ほぼ必ずこの言葉が出ます。予算がないから手を出せない、という理解です。
ところが、実際に企業へ聞いた調査を読むと、様子が違います。「十分な予算の確保」を重視すると答えていたのは、ブランディングがうまくいっている企業ではなく、停滞している企業のほうでした。順調に進んでいる企業が挙げていたのは、まったく別の項目です。
この記事では、タナベコンサルティングが実施した2つの年度のアンケート調査を手がかりに、何が成否を分けていたのかを整理します。そのうえで、予算をかけずに今日から着手できる進め方を、5つのステップにまとめました。当社もブランディング支援を事業として行っていますが、まず自社だけでやれる範囲を尽くしてから外に出すほうが、結果的に費用対効果は高くなると考えています。
この記事で分かること
- ブランディング戦略を策定していない企業が53.3%であること
- 策定した企業でも43.0%が「遅れ」または「停止」していること
- 順調な企業と停滞した企業を分けていた要因(コミットメント50.0% vs 27.8%)
- 予算を重視していたのは停滞側だったという逆転(32.4%)
- 現状把握をしたことがない企業が45.7%、専任部署は3.7%という体制の現実
- 予算ゼロで今日から始める5ステップと、予算を使うべきタイミング
1. まず現在地|半数以上が「策定していない」
最初に、全体の状況を押さえます。タナベコンサルティングの2024年度調査では、ブランディング戦略を「策定していない」と答えた企業が53.3%でした。半数を超えています。策定済みは46.7%です。
| 区分 | 割合 | 補足 |
|---|---|---|
| 策定していない | 53.3% | 半数超。まだ着手していない企業のほうが多い |
| 策定している | 46.7% | 前年39.3%から約7ポイント増 |
出典: タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2024年度
この数字は、二通りに読めます。ひとつは「まだやっていないのは自社だけではない」という安心材料としての読み方。もうひとつは、前年から約7ポイント増えているという事実です。1年で7ポイントというのは小さくない動きで、同じ商圏の競合が着手し始めている可能性を示しています。
ただし、注意して読むべき点があります。ここでいう「策定している」は、経営戦略としてブランディングの方針を持っている、という意味です。ロゴやWEBサイトを作ったかどうかとは別の話です。制作物があることと、戦略があることは同じではありません。この区別は、次の章でさらに効いてきます。
2. 策定しても、4割は前に進んでいない
では、策定した46.7%の企業はうまくいっているのか。同じ調査で、策定済み企業に進捗を聞いた結果がこちらです。
| 進捗 | 割合 |
|---|---|
| 順調に進行している | 57.0% |
| 遅れている | 39.2% |
| 停止している | 3.8% |
出典: タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2024年度
遅れ39.2%と停止3.8%を合わせると43.0%。策定した企業のうち4割強が、思ったように進んでいません。ここから逆算すると、全体のなかで「策定し、かつ順調に進んでいる」企業はおよそ4社に1社という計算になります(46.7%×57.0%=26.6%)。
見るべきは「停止3.8%」ではなく「遅れ39.2%」のほうです。停止はまだ分かりやすい。予算が尽きた、担当者が辞めた、といった説明がつきます。厄介なのは、止まってはいないが進んでもいない状態です。毎月の会議に議題としては載っている。ただ、決まらない。この状態は数年続くことがあり、その間の費用と工数はすべて出ていきます。
3. 分かれ目は、予算ではなかった
この記事の核心です。同じ調査では、ブランディングを推進するうえで重視する項目を、順調に進行している企業と停滞している企業に分けて聞いています。両者の答えは、はっきり分かれました。
| 重視する項目 | 順調な企業 | 停滞企業 |
|---|---|---|
| 経営陣の強いコミットメント | 50.0% | 27.8% |
| 十分な予算の確保 | — | 32.4% |
出典: タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2024年度。「十分な予算の確保」は停滞企業が順調な企業を10ポイント以上上回った項目。
順調な企業の半数が「経営陣の強いコミットメント」を挙げ、停滞企業では27.8%。22.2ポイントの差です。逆に「十分な予算の確保」は、停滞企業が32.4%で、順調な企業を10ポイント以上上回りました。予算を重視しているのは、進んでいない側なのです。
この数字の正しい読み方
これは相関であって、因果を証明したものではありません。「予算を気にすると停滞する」のではなく、停滞している企業ほど、その理由を予算に見出しやすいという関係も十分に考えられます。ただ、いずれの読み方をしても結論は変わりません。予算を増やせば進むという単純な話ではない、ということです。
現場で見てきた感覚とも一致します。止まっているブランディングの現場では、たいてい「予算がつかないから決められない」ではなく、「決める人がその場にいないから決まらない」ことが起きています。制作会社から3案が上がってくる。担当者は決められない。社長に持っていく機会が月1回しかない。それだけで1つの判断に1か月かかります。
4. なぜ予算では解決しないのか|3つの構造
予算を積んでも進まないのには、理由があります。ブランディングという仕事の性質によるものです。
① 決めごとの連続だから、決裁者が離れると止まる
ブランディングの実務は、判断の連続です。誰に向けるのか。何を言わないと決めるのか。どの写真を使うのか。この製品はブランドに入れるのか外すのか。そのどれもが、正解が外部にない問いです。市場調査をしても答えは出ません。最終的には、経営として「こう名乗る」と決めるしかない。
だから、決められる人が関与しているかどうかが、そのまま進行速度になります。予算を倍にしても、判断が月1回しか降りてこない構造は変わりません。むしろ予算が大きいほど関係者が増え、決裁が重くなることさえあります。
② 一貫性は反復でしか蓄積せず、途中で崩れる
ブランドは、一度作って完成するものではなく、同じ姿を繰り返し見せることで積み上がります。問題は、繰り返す担い手が現場の担当者だという点です。SNSの投稿、チラシ、展示会のパネル、採用ページ。これらは日々別の人が作ります。方針が共有されていなければ、それぞれの解釈でブレます。
高額なガイドラインを整備しても、日々の判断で参照されなければ意味がありません。逆に、A4一枚の決めごとでも、全員が見て使っていれば一貫性は保てます。効くのは分量ではなく、参照されているかどうかです。具体的な決め方は中小企業のブランドアイデンティティ構築ガイドで詳しく扱っています。
③ 成功の基準が社内にないと、最初の停滞で消える
ブランディングの効果は、広告と違って翌月には出ません。半年、1年という単位で効いてきます。その間、「これは意味があるのか」という問いに耐えられるかどうかが分かれ目です。何をもって前進とするかを経営が握っていなければ、成果が見えない時期に予算ごと削られます。
ここでいう基準は、売上である必要はありません。「採用の応募者に、志望動機で自社の商品名が出てくるか」「既存客に理由を聞いたとき、価格以外の言葉が出てくるか」でも構いません。測れる形で決めておくこと自体が、事業を守ります。
5. 測っていないから、改善できない
前章の「基準」に直結する数字が、翌年度の調査にあります。ブランドの現状把握を「実施したことがない」企業が45.7%。定期的に実施しているのは20.3%、不定期が24.3%です。
| 現状把握の実施状況 | 割合 |
|---|---|
| 実施したことがない | 45.7% |
| 不定期に実施 | 24.3% |
| 定期的に実施 | 20.3% |
出典: タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2025年度
つまり、半数近い企業が「自社がどう見られているか」を確かめないまま、見せ方を作っていることになります。これでは、良くなったのか悪くなったのかが分かりません。分からなければ、続ける理由も止める理由も社内で説明できません。
ここで重要なのは、実際に使われている手法が、費用のかからないものだという点です。
- 顧客アンケート 51.5% … 自社でできる
- 社員アンケート 47.2% … 自社でできる
- 認知度調査 25.8% … 外部委託が必要で費用がかかる。実施は4社に1社
出典: タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2025年度
上位2つは、どちらも予算ゼロで実施できます。現状把握をしていない理由は、費用ではありません。やる決めごとになっていないだけです。
6. 体制の現実|専任部署があるのは3.7%
「専任の担当がいないからできない」という声もよく聞きます。これも、調査で確かめられます。
| ブランドの管轄部署 | 割合 |
|---|---|
| 経営企画 | 25.3% |
| 特に管轄部署なし | 23.7% |
| 専任部署がある | 3.7% |
出典: タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2025年度
専任部署があるのは3.7%だけです。裏を返せば、96.3%の企業は専任なしでやっています。「専任がいないから無理」は、条件としては成立しません。
むしろ注目すべきは、最多が経営企画の25.3%だという点です。広報でも営業でもなく、経営に最も近い部署が持っている。これは第3章の「経営陣のコミットメント」と同じことを、別の角度から示しています。ブランディングは、経営から遠ざけるほど進まなくなります。
同時に、23.7%が「管轄部署なし」と答えていることも見逃せません。誰の仕事でもない状態です。この場合、誰かが気づいたときにだけ動き、気づかなければ止まります。部署を新設する必要はありませんが、「誰の担当か」だけは決めておく必要があります。
7. 予算ゼロで今日から始める5ステップ
ここまでの調査結果を、実際の手順に落とします。いずれも外注費はかかりません。必要なのは経営者の時間だけです。
| Step | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 「誰に、何を約束するか」を1文で書く | 30分 |
| 2 | 現状把握を無料でやる(顧客10人・社員全員に3問) | 2週間 |
| 3 | 意思決定者を「人」で1人決める | 会議1回 |
| 4 | 日々の判断の型を4点だけ固定する | 半日 |
| 5 | 四半期に一度、同じ3問で測り直す | 年4回 |
Step 1|「誰に、何を約束するか」を1文で書く
経営者本人が書きます。委任しないでください。第3章のとおり、これは外部に正解がない問いだからです。書式は「当社は、〈誰〉に対して、〈何〉を、〈他社と違うどのやり方〉で提供する」の1文で足ります。
難しいのは、何を「やらない」と書けるかです。誰にでも売れる、何でもできる、と書いた瞬間にこの1文は機能しなくなります。判断に使えないからです。書き終えたら、直近3か月の受注を思い出して、この1文と合っていたか照らしてください。合っていない仕事が多ければ、1文のほうが実態と違っています。
Step 2|現状把握を無料でやる
第5章のとおり、実際に使われている手法の上位2つは顧客アンケートと社員アンケートです。既存のお客様10人と、社員全員に、同じ3問を投げてください。
- Q1. 当社を人に説明するとき、なんと言いますか(一言で)
- Q2. 他社ではなく当社を選んだ理由は何ですか(社員には「なぜここで働いているか」)
- Q3. 当社に足りないものは何ですか
見るのは平均点ではなく、Q1の言葉がバラバラかどうかです。10人が10通りの説明をするなら、伝わっていません。Q2で「価格」「近いから」しか出てこないなら、選ばれている理由が他社と替えのきくものだということです。これは、次に何を作るかの発注仕様そのものになります。
Step 3|意思決定者を「人」で1人決める
部署ではなく人です。そしてその人が、その場で決めてよい範囲を明文化します。「写真の選定とコピーの言い回しは担当者が決めてよい」「対象顧客とサービス範囲の変更は社長」といった線引きです。
第4章で挙げた「決まらないから止まる」は、これで大半が解消します。費用は一切かかりませんが、進行速度への影響は最も大きい一手です。
Step 4|日々の判断の型を4点だけ固定する
分厚いガイドラインは要りません。現場が毎日迷う4点だけ決めます。
- 色 … 主要色1つと補助色1つ。カラーコードで書く
- 書体 … 見出し用と本文用の2つ。全員のPCにあるものにする
- 写真のトーン … 明るいか落ち着いているか。人が写るか写らないか。良い例を3枚貼る
- 言い回し … 自社の呼び方、使う言葉と使わない言葉を各5語
A4一枚に収め、社内の共有フォルダの一番上に置きます。参照されなければ意味がないので、分量よりも「すぐ開けるか」を優先してください。
Step 5|四半期に一度、同じ3問で測り直す
Step 2とまったく同じ質問を使うことが条件です。質問を変えると比較できません。定期的に実施している企業は20.3%しかないので、年4回続けるだけで上位2割に入ります。
見るのはQ1の言葉がそろってきたかだけで構いません。ばらつきが減っていれば、伝わり方は改善しています。これが第4章③で必要だった「社内の基準」になります。
8. では、予算はいつ、何に使うのか
予算が無意味だという話ではありません。同じ2024年度調査では、ブランディングに1,000万円以上を投じた企業の49.1%が増収増益と回答しています。投じた企業のおよそ半数が結果を出しているということです。
ただしこの数字は、そのまま「1,000万円出せば半数が増収増益になる」とは読めません。1,000万円を投じられる企業は、もともと体力があり、経営としての意思も固まっている可能性が高いためです。因果が逆向きに働いている部分があります。
実務的には、順序の問題として読むのが妥当です。1〜7章までの土台があるうえで予算を乗せると効く。土台がないまま乗せると、第2章の「遅れ39.2%」に入ります。そのうえで、費用を使う価値があるのは次の3つです。
- 一貫性を保つための素材づくり … 撮影は代表例です。社内で撮り続けるとトーンが揺れます。まとめて撮って素材を持っておくと、その後1年の発信すべてがそろいます。職人の技術を「伝わる化」する撮影・映像ブランディング術も参考にしてください
- 届ける量を増やす … 伝わる形が固まってから広告・PRに乗せる。順番が逆だと、伝わらないものを大量に配ることになります
- 外部の視点を買う … 自社アンケートでは、聞けないことがあります。取引のない層にどう見えているかは、外に頼むしかありません
逆に、最初に使うべきでないのはWEBサイトの全面リニューアルです。何を約束するかが決まっていない状態で作り直すと、見た目が新しくなるだけで、半年後にまた同じ議論に戻ります。
9. よくある3つの誤解
誤解①「ロゴを変えることがブランディング」
第1章で触れたとおり、調査でいう「策定」は制作物のことではありません。ロゴは、決まったことを表す記号であって、決めること自体ではない。先にStep 1の1文がないままロゴだけ変えると、社内の誰も新しいロゴの理由を説明できません。
誤解②「BtoBの会社には関係ない」
2025年度調査で、経営への影響として最も多く挙がったのは「人口減少に伴う人手不足・採用難」34.0%でした(次いで物価・賃金上昇28.7%)。取引先が固定されているBtoB企業でも、採用は市場で競争しています。求職者は必ず社名を検索します。そこで何も出てこない、あるいは何をしている会社か分からない状態は、そのまま応募数に効きます。
採用の観点は給与で大手に勝てない中小企業が選ばれる会社になる方法で、製造業の事情は製造業のブランディングで扱っています。
誤解③「効果が測れないから始められない」
測れます。Step 2の3問がそれです。認知度調査のような本格調査を実施している企業は25.8%にとどまり、大半は顧客・社員へのアンケートで済ませています。測れないのではなく、測る手間をかけていないだけ、というのが実態に近い読み方です。
補足|次の会議で使える15分のアジェンダ
この記事を読んで終わりにしないために、次の定例会議の最後15分でできる形にしておきます。
- 最初の3分 … 参加者全員に「当社を一言で説明すると?」を紙に書いてもらう。見せ合う
- 次の5分 … 言葉がそろっているかを確認する。バラバラなら、社外に伝わっているはずがないという合意を取る
- 次の4分 … Step 3の意思決定者を、その場で名指しで決める
- 最後の3分 … Step 2のアンケートを、誰がいつまでに誰に配るかを決める
この15分に予算は必要ありません。そして、第3章で見た「順調な企業と停滞企業を分けていたもの」は、まさにこの15分に経営が座っているかどうかです。
まとめ
- ブランディング戦略を策定していない企業は53.3%。ただし策定済みは前年から約7pt増えている
- 策定しても43.0%が遅れ・停止。全体で見ると順調なのは4社に1社程度
- 順調な企業が重視するのは経営陣のコミットメント50.0%(停滞企業27.8%)。予算重視は停滞側が32.4%で上回る
- 現状把握をしたことがない企業が45.7%。実際の手法は顧客・社員アンケートで、費用はかからない
- 専任部署があるのは3.7%。96.3%は専任なしで運用している
- 予算は土台ができてから、素材づくり・届ける量・外部の視点に使う
ブランディングに必要な最初の投資は、費用ではなく経営者が判断に使う時間でした。予算がないことは、着手しない理由になりません。逆に、時間を割かないまま予算だけ用意すると、4割が入る「遅れ」の側に回ります。
まずは第7章のStep 1、1文を書くところから始めてみてください。30分で、自社の現在地はかなりはっきりします。
出典
- タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2024年度(策定状況/進捗/重視項目/投資額別の業績)
- タナベコンサルティング「ブランディングに関するアンケート」2025年度(現状把握の実施状況と手法/管轄部署/経営への影響)
本記事は、出典に記載された調査結果を引用したうえで、当社の解釈を加えて構成しています。引用元の企業名・団体名は各社に帰属し、記事の作成にあたって出典元との提携・監修関係はありません。
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